実践的学問・行動経済学『9割の人間は行動経済学のカモである』橋本之克 (マーケティング・プランナー)
『9割の人間は行動経済学のカモである』
橋本之克 (マーケティング・プランナー)
サブタイトルが、
『非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす』
とあるように、
行動経済学を日常やビジネスの場で実践できるように、
事例を紹介しながら易しく解説した本。
一般的にマーケティングやセールスの書籍はトップマーケッターやトップセールスの体験から書かれている場合が多く、
個人の資質や状況に左右されやすいです。
そのため、マーケティングやセールスの解説のために、
何らかの指針が必要だと考えると、
行動経済学は販売活動に親和性が高く、参考にできるものだと思います。
この本では著者が言うように、
プロスペクト理論、ヒューリスティクス、各種バイアス、フレーミングなど、
代表的かつ、日常に応用しやすい理論を、
一般読者に馴染み深い事例を挙げながら解説してくれます。
例えば、AKBや袋綴じ、ポイントやマイル還元、LINEやスカイツリーのヒットなど。
行動経済学自体がそこまで歴史がある学問ではないので、
ダニエル・カーネマンやリチャード・セイラーなど、外国の研究者の書籍が多く、
この本のように日本の事例で紹介されるのは有難いです。
行動経済学が生まれた背景として、
主流派経済学が、
ホモエコノミクスという完全に合理的な人間を想定していることを否定するために生まれた側面があります。
そのため、全ての人間の行動を理解することができるというほどではないですが、
確実に経済活動の実際に近い考察を得ることができると思います。
学説を分かりやすく解説しているところがこの本の良いところだと言いましたが、
例えばプロスペクト理論では、
価値観数と確率加重関数を扱っています。
価値関数の「得よりも損の方が重視される」
確率加重関数の「高い確率は低く、低い確率は高く感じられる」
などは言葉だけでは分かりづらいですが、
馴染みのある事例から解説されているので分かりやすいです。
行動経済学の学問的な細かな知識は極力排しているようなので、わかりやすく取っつきやすいです。
マーケティング活動から、
行動経済学に興味を持つためにはとてもオススメできる一冊です。
著者について
橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
東京工業大学社会工学科卒業後、大手広告代理店で消費財のマーケティングを担当。
1995年日本総合研究所入所。環境エネルギー分野を中心に、官民共同による研究事業組織コンソーシアムの組成運営や、自治体向けのコンサルティング業務を行った。
1998年アサツーディ・ケイ入社後、金融・不動産・環境エネルギー業界を中心にマーケティング戦略やブランディング戦略のプランニングを行う。約600本の企画書を書き、約600回のプレゼンテーションを行い、100社以上の金融機関、50社以上の不動産住宅会社の業務に携わった。
アンケート調査、グループインタビュー、デプスインタビュー、画像メタファー調査、音相分析などさまざまな手法を通じて、顧客の心理や行動の調査分析を実施。モチベーションを高めるとともに、心理的バリアを払拭することで購買や契約に結び付ける、顧客心理を把握したマーケティングが得意。
また大学、研究機関、新聞社、金融機関等が催すマーケティング関連セミナーでの講師、雑誌等への寄稿も多数。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引主任者、東京商工会議所 2級カラーコーディネーター。
【著者ホームページ】http://www.hasiyuki.com
事例で学ぶ読み物 『できるマーケッターの成功アイデア大全』スティーブ・コーン
『できるマーケッターの成功アイデア大全』
スティーブ・コーン
40年以上、アップル、AMEX、Fedexなどグローバル企業においてマーケティングを担当してきた著者。
アメリカのグローバル大企業中心に、
マーケティング活動の成功事例、失敗事例を率直に語っています。
そのなかで、著者のマーケティングの成功法則が紹介されています。
マーケティング普遍の法則
①高揚感
②話題性
③行動を促す呼びかけ
正直、BMW、マクドナルド、GM、アップル、ゼロックス、デルタ航空などなど、
かなりの大企業の事例が多いのでピンとこない部分も多いですが、読み物として面白かったです。
テレビCMやタレント起用法など大企業ならではの事例も多いので、その辺は興味ない人は読み飛ばしても構わないと思います。
何年たっても会社に必要なものは
独自のウリ(USP)
と著者が言っていますが、即席でできるもよではないからこそ、いろんな会社の事例を学ぶのは参考になると思います。
なんだかんだアメリカはマーケティング活動においては先進国であることは間違いないので、本場の事例を読むのは面白かったです。
スティーブ・コーン
前職はエプシロンの最高マーケティング責任者(2007年から2010年初めまで)。
今日のマーケティング界で最も尊敬されている人物のひとり。40年以上に及ぶキャリアを通じて、アップル、アメリカン・エキスプレス、フェデラル・エクスプレスをはじめとするグローバル・ブランドの主要なキャンペーンを担当すると同時に、航空業界やホテル業界、小売業界のロイヤルティ・プログラムを数多く手がけてきた。
選挙キャンペーンの手腕でも評価が高く、共和、民主両党の大統領候補からアドバイスを求められる。また、ワシントンDCのベトナム戦没者追悼記念碑の建設資金集めにも尽力した。
売れる製品だけつくる!『むかしばなしで学ぶ 最強の商品 「売れるモノ」だけをつくる方法』清水孝洋
『むかしばなしで学ぶ 最強の商品 「売れるもの」だけをつくる方法』 清水孝洋
内容
数々のロングセラー商品に共通する法則…それは、「小さくても新しい市場をつくった」こと。本書のメソッドを使えば、あなたの商品も新しい市場をつくるものになる!マーケティングの仕組みを理解して、「最強の商品」をつくろう。
この本はサンスターやジョンソンにて、
「カビキラー」や「固めるテンプル」などの最強の商品を生み出し続けた梅澤伸嘉氏の
MIP(Marketing Initiating Product)理論に基づいて、
著者で理論の実践者である清水氏が、むかしばなしを通して解説する本です。
表紙もポップで、むかしばなしで学ぶという平易な感じですが、中身は結構本格的です。
内容は、梅澤氏の提唱する理論×一般的なマーケティング理論×実例や経験を合わせたものになっていて、
実践的な独自理論と一般的な理論が上手くミックスされていて、説得力があります。
マーケティングといえば、
“いかに売るか”にフォーカスが当てられますが、商品の良さはやはり大事で、
マーケティングの概念のなかにも製品戦略が含まれているように切っても切り離せない分野です。
梅澤理論である、
・消費者ニーズ理論
・未充足ニーズ理論
・C/Pバランス理論
・MIP理論
などがわかりやすく解説されていますので、
マーケティング初心者や営業担当、開発担当など幅広くオススメです。
新時代のマーケティング 『ウソはバレる 「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング』
「ウソはバレる 「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング」
イタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン
マーケティングにおいて、長い間伝えられてきた「定説」に疑問を投げ掛け、
現代におけるより重要な概念とフレームワークを提唱した名著。
この本で指摘する「定説」とは、
例えば、
「ブランドが重要」、
「顧客ロイヤルティを強める」
「ポジショニングこそが最重要」
「説得の技法:フレーミングなどを駆使」
「顧客は不合理な選択をする」
など、マーケティングをかじった人間なら常識的に思っている事柄です。
内容を簡単に二つに分けると、
・現代では顧客が商品の「絶対価値」に基づいた合理的な判断を下せるようになってきている。
・“影響力ミックス“POMのフレームワークを判断基準とした適切なマーケティング活動をおこなう
この二つについての文書です。
「絶対価値」とはその名のまま、
その商品の本来の価値や大体の利用体験などのことで、ブランド名や過去の体験から相対的に評価した価値とは逆のものです。
なぜ、絶対価値が消費者に近くされるようになったのか?
他社のレビューや使用評価がより手に入りやすくなったことに、よってもたらされていると論じています。
もちろん著者も言っていますが、
例外となる分野ももちろんあります。
二つ目に影響力ミックスです。
P-prior 前々からもつ嗜好、信念、経験
O-others 他者からの情報サービス
M-marketers マーケター
ある人の購入判断はこの3つで決まる。
この3つの影響力を測ることで、最適なマーケティング活動を行うという主張です。
もちろん最重要はO-othersです。
他者からの情報の関与がどれ程あるのかで、
購入に際して絶対価値の及ぼす影響を測ることができるとしています。
詳しくはぜひ本書を読んで頂きたいです。
最初にあげた従来マーケティングの定説が役にたたないとは著者も言っていませんし、
役に立つ部分もある。
この本で論じられた新しい提言が参考になるのはもちろんですが、
影響力ミックスや絶対価値の概念は、
従来のマーケティング手法が現場で役に立つのかどうかを判断する基準ともなると思うので、とても参考になりました。
本の最後の方では、この絶対価値の重要性が高まる時代に、
マーケター、マーケティングがどうあるべきかまで論じられています。
マーケティング、セールス、製品企画に関わる人間にはとてもオススメしたい本です。
内容
マーケティングの「定説」の9割は、もはや通用しない!?消費者にウラのウラまで見抜かれる「絶対価値」の時代を生き残る新しいフレームワーク「影響力ミックス」とは?
煩悩×マーケティング 『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』松本健太郎
内容
話題のデータサイエンティストが解き明かした、大ヒット&大ブームの「悪魔の法則」…人間の50%はクズである!「キレイごと」より「本音トーク」がウケる理由、「メガ盛り」が食べたいのに「サラダ」が欲しいと嘘をつく心理、人々を新型コロナ論争に駆り立てるバイアス…。「つい、買わされてしまう…」禁断のテクニックを解説!
データサイエンスの知見から、
インサイトマーケティング(消費者心理に基づくマーケティング)に関わるお仕事をしている著者。
本書はキレイごとではなく、
人間の悪の側面、特にブックで根本煩悩と呼ばれる、
欲望
怒り
愚かさ
怠惰
不信
偏見
に着目し、行動経済学の代表的な知識を用いて消費者心理やヒットの原理を解き明かそうとする本です。
多くの面白く、馴染みのある事例や昔ばなしを用いながら解説されているのでとても読みやすいです。
M-1グランプリ、SDGs、FACTFULNESSのヒットなどなど、
身近で時事的な事例が多いです。
マーケティングとも関連付けて解説されているので、ビジネスに結びつけやすい内容になっています。
もっと深く行動経済学や統計学、マーケティングの知識を学びたい人は、
この本だけでは足りないかもしれませんが、
知識がある人にも、世の中の新しい見方を学べますし、
入門としても分かりやすくおすすめです。
時事的な内容も多いので、読むのは早ければ早いほど良いかなと思います。
人の動かし方の科学『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 ターリ・シャーロット
『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』
ターリ・シャーロット
全ての営業本やマーケティング本を読む前に一度読んでおくと良い本
実務に携わるコンサルタントなどの書籍は、
経験によって書かれているので、
偏りや思い込みがある可能性が捨てきれません。
もちろん膨大な経験から書かれているものがほとんどなので、有意なものが多いですが、
この、
『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』
のような科学的なアプローチから人を動かす方法を考えるのは効果的だと思います。
心理学の本ですのでらマーケティングや営業に役立てる際には、
応用力が必要にはなりますが、
最終的に人を動かすというゴールに関しては同じことですので、役に立ちますし、実験を基に書かれていて信頼できます。
この本の内容
タイトルでもあるように、
"事実"では人を動かされないということは、
マーケティングや営業マンからすると絶望的なようにも見えますが、
逆にいうと"事実"以外で動かすことはできるということです。
人が意見を変える際や、他人からの影響力などを心理学的アプローチから、
分かりやすく、簡潔にまとめられているので
マーケティングや営業だけではなく、
人生全般にタメになる本ですので、
オススメです。
紹介文
人はいかにして他者に影響を与え、他者から影響を受けているのか?
私たちはみな、毎日何かしらのかたちで他者に影響を与え、また受けながら生活をしています。
私たちはその行為についてどれだけ自覚的なのでしょうか?
もっと上手に他人の意見を変えることはできないのでしょうか?
本書では、客観的な事実や数字は他人の考えを変える武器にはならないなど、
認知神経科学が近年発見した数々の驚くべき研究結果を示し、
他人を説得しようとするときに私たちが陥りがちな罠と、それを避ける方法を紹介します。
名門大学教授が教えるとっておきの「説得の技法」、ぜひご一読ください!
最高峰の実践マーケティング 『もうモノは売らない 「恋をさせる」マーケティングが人を動かす』ハビエル・サンチェス・ラメラス
『もうモノは売らない 「恋をさせる」マーケティングが人を動かす』
ハビエル・サンチェス・ラメラス
内容
人々が欲しがっているものを与えることではなく、狙いどおりに感じてもらうことが重要だ。製品の何をアピールすべきか。アイデアはどこから得るべきか。広告は誰に向けるべきか。広告はどこに出すべきか。消費者調査ではどう質問すべきか。元「コカ・コーラ」全世界統括マーケティング・ディレクターが見出した、95%が間違う世界で確実に結果を出す方法。
実践的なマーケティングについてまとめた本。
タイトルの「恋をさせる~」からは想像し難い、実際の事例や理論を交えた多少硬派な内容です。
内容のコアメッセージとしては、
「感情に訴える」マーケティング戦略、ブランド構築になりますが、
その他にも、
マーケティング組織の運営、
最新のメディア戦略
効果的なマーケティングリサーチの実践方法
価値と価格の戦略
など、マーケティング全体を見渡すものになっています。
多少、マーケティング用語的なものも当然のように使われているので、
適宜調べるか、多少の知識がある方が理解しやすいです。
マーケティングリサーチに関しては、
感情に対して問いかけることが重要で、
実際の例をあげて説明しているところはとても役に立ちそうです。
ヘンリー・フォードの言葉、
「顧客にどんなものがほしいかと尋ねていたら、速く走れる馬だと答えただろうね」
を引用して説明しているように、
消費者にインサイトを求めることの危険性についての記述は、改めて気づかされる部分が多かったです。
また、ブランド戦略において、どこの世代をターゲットにすれば長期的なリターンの増加やブランド老化を防げるだろうかという説明は、
聞いてみれば当たり前ですが、気づきに満ちた深い洞察に触れることができます。
結局のところ生涯顧客価値を考えれば、若い層にアピールすることで長期的なリターンは最大になるということだと思います。
実際の実務や、マーケティングマネジメントに関わってきた著者だからこそ、
よくあるプロモーションに偏った本ではなく、
全体を見渡し、マーケティングを成功させる方法をまとめることに成功している良書だと思います。